はやぶさ 再突入カプセル

ということで再突入カプセルを作った山田准教授@JAXAの講演。

高校での講演ということで技術的に突っ込んだ話はカットされてしまったが、再突入に関する疑問がある程度解消された。というより、どのあたりを調べれば自分の疑問に答えられるのかがわかったというところ。


耐熱素材の開発では500以上試作し、最初は数秒で穴があいたが最終的に再突入可能なものができたなど、アブレーション素材の開発が大変だった模様。ただしこのあたりは技術者向け論文で予習済み。
http://www.jspf.or.jp/Journal/PDF_JSPF/jspf2006_06/jspf2006_06-368.pdf


高校生向けで突入時シミュレーションの詳細が大幅にカットされたのが残念だが、パラパラと説明なしで飛ばされたスライドには、オーソドックスな力学方程式が並んでおり、剛体力学や流体力学、熱気体力学などからかかる力、熱を16コアのマシンでひたすら計算したらしい。
スライドにはモンテカルロ法とかかれていたので、詳細なモデル化と考慮しきれない揺らぎなどを乱数で発生させて、繰り返し計算したのだろう。
そうやって何万回となく計算して、落下範囲100kmx15kmの楕円から外れる確率が100万分の1?という結果を導いたらしい*1


カプセルは重心が前というか下のほうにあって、後方の乱流で姿勢を安定させる模様。
たとえとして「弓矢のように、前にやじりがあって重く、後ろの羽根で方向が安定する」的な話。カプセルは一見すると不安定な形に見えたが、重心の位置と空気力学的効果で比較的安定らしい。
実際、再突入時に多少のぶれ(20度程度の大きな首ふり運動していても)があっても空気が徐々に濃くなり、それに伴って強烈な空力加熱とGがかかるころ、つまりちょうどカプセルが光っている間は姿勢は安定する。そしてしばらくするとまたミソ摺り運動がはじまる。そんなグラフが表示されていた。このあたりは面白いので調べてみたいところ。


再突入は大成功だったが、耐熱素材の開発がやはり一番大変だったのかも。素人目にはカプセルの再突入シミュレーションができるってこと自体驚きだったが、この分野の人たちからすると普通の技術のようで、驚きのポイントがズレている。
実際、考えてみればアポロ時代から再突入技術は研究されていたわけだ。惑星軌道からの再突入もNASAのスターダストが2006年に実施しているし、木星落下のガリレオプローブなどははやぶさカプセルのさらに4倍の熱を受けたし。こういった分野の研究レベルからすると、はやぶさカプセルの再突入にかかわる技術は耐熱素材を除いて20年くらい前の技術レベルなんだろう。
といっても私の感動が減るわけではないが。



ちなみに、次のカプセルでの改良点もみつかっているとのこと。一番の問題点はパラシュートを開くタイミングを測るため加速センサをつかったことらしい。
5Gになったらパラシュートを開くようにプログラムしたかったが、7年の飛行でセンサの精度が低下していないか確認する術がなくて、結局加速センサとタイマの2段構えのプログラムになったらしい*2

これは工学的には問題なので次はもっと確実にパラシュートを開くプログラムがかけるような仕組みにしたいとのこと。


"関連blog"

*1:このあたりの精度の求めかたと繰り返し回数、モデル化の関係は不明。質問してみたが基本は繰り返し計算で科学的には面白くないので発表する予定はないとのこと。残念。

*2:5Gなんて加速度ははやぶさ飛行中につくり出すことができないので、再突入前にチェックできなかった。