カッコウはコンピュータに卵を産む::CIA、NSA、二人のボブ・モリスとポール・グレアム

15年ぶりくらいに「カッコウはコンピュータに卵を産む」を読み返し。

アメリカ官僚の優秀さ

最初に読んだときに一番驚いたのが、アメリカの上級官僚の優秀さ。

著者ストールから連絡を受けていち早く動いたCIAのエド・マニングは実は上級管理職だし(上巻151p)、NSA(国家安全保証局)の副長官がネットワークに精通(「DATEX-Pシステム」とか知っている)していたり(下巻141p)。下巻172p-172p。

現場レベルが詳しいのは当たり前として、上級職ほどさらに分かっているというのが、アメリカやヨーロッパの強さの源の一つなんだろう。合理的な強さ。
今回読み直して思うのは、組織で働くということについて。組織の壁にぶちあたるのは洋の東西を問わず変わりない。そのあたりの苦労が前に読んだときよりもぐっと身に染みて理解できた気がする。前に読んだときは活躍部分にばかり目がいったが、今は苦労して見えない部分で手を動かしている様子とかがよりリアルに感じられる。
そういった感想に加えて、官僚機構の硬直状態は日本も欧米もあまり変わりない感じだが、アメリカの中堅以上のスタッフの層の厚さが尋常じゃない模様。

諜報機関のコンピュータシステム

1987 年頃、CIAの建物の下に野球スタジアムほどの空間があって、そこにIBMメインフレームがずらりと並んでいたらしい(下巻179p)。さらっと書かれているが、当時これはかなりインパクトのある情報だった。少なくとも私にとって。
今はもっとすごいことになっていると思う。暗号と同じく、データマイニングの最先端は絶対に諜報機関が開発していて(下巻180p)、公開技術のはるか先を走っているはず。

今回思ったのは、現在、CIAなどの諜報機関はどうやって情報を集めているんだろうということ。諜報は通信傍受だけでないのは分かるが、それにしてもネット上の情報ってのも今の時代、重要だろう。googleなどがロボットで巡回しているのは分かるが、各国の諜報機関はどうやってWEBの情報を傍受しているのだろう。
それと、システムの規模。確かにマシンの性能はあがったが、それにもまして情報も増えた。GoogleIDCをいくつも作っているくらいなので、諜報機関に集まるデータも尋常じゃない規模になっているはずで、IDCのひとつやふたつ必要な規模だと思うが、どうやって賄っているのだろうか。

いずれも興味あるところである。

二人のボブ・モリス

初代ボブ・モリスはAT&Tベル研でUnixのパスワード機構を作ったひとで、NSAでも働いていたが、1988年に息子のボブ・モリスJrがインターネットワーム事件を起こした後、 1994年にNSAを退職して現場からリタイアしていた。

そして、息子のボブ・モリスがどうなっているか調べたら、なんとLispで有名なポール・グレアムとつるんで会社作ったり、MITの教授も兼任しているらしい。大学の同級生だそうだ。

「普通のやつらの上を行け」で有名なポール・グレアムの会社だが、これはボブ・モリスJrと共同経営だったらしいし、そもそもワーム事件が発生したとき、ポール・グレアムはモリスに「うまくできたか?」と尋ねている(下巻284p)。


ひさびさに読み直してみたが、いろいろな意味で面白い。